テーマを持ったシークエンスで語られる「中森明菜」

オリコン・ウィークリー(1993年5月17日号)より、「テーマを持ったシークエンスで語られる中森明菜」。


中森明菜のデビューは82年5月。

それは聖子と“たのきん”旋風が吹き荒れる時代だった。

その一方では、YMOの「君に、胸キュン」やサザンオールスターズの「ボディ・スペシャルⅡ」がヒットし、ロックがメジャー化する兆しを見せていた。

“普通の女の子に戻ります”と名台詞を残したキャンディーズの解散、山口百恵の引退、ピンク・レディの失速で幕を開けた80年代、歌謡界の女王の座は若きアイドル松田聖子に受け継がれるかのように思われていた。

そこに登場したのが中森明菜である。

アイドルの公式を無視して、ミディアム・バラードの「スローモーション」でデビュー。

しかし、我然注目を集めたのは2ndシングル「少女A」のヒットによってであった。

マイナー・メロディーにハードなギター・サウンド、幼さが残る顔と挑発的な詞は、70年代後半の山口百恵的手法である。

百恵引退後、間髪を入れずこの手法を用いたのが三原順子の「セクシー・ナイト」だ。

最高位8位を記録している。

ところが、百恵後の歌謡界を席捲したのは、彼女の“翳り”の魅力とは正反対のベクトルを示す松田聖子だったのである。

その聖子がデビュー以来13曲連続のヒットを飛ばし、「風は秋色」から「天国のキッス」まで11曲連続チャート1位記録を更新中に「少女A」はヒットした。

つまり、松田聖子という存在へのアンチテーゼとして、中森明菜はスタートしたのである。

それは太陽と月の関係であり、陽と翳の魅力でもある。

色に例えるなら、赤と黒かもしれない。

しかも、中森明菜のシングル曲の原形はデビュー1年目にして確立されている。

それは「スローモーション」型か「少女A」型だ。

例えば、後に発表された「1/2の神話」「十戒」「飾りじゃないのよ涙は」「DESIRE」「TATTOO」は「少女A」型だ。

また、初のチャート1位となった「セカンド・ラブ」をはじめ「ミ・アモーレ」「難波船」などは「スローモーション」型に含まれるだろう。

4thシングル「1/2の神話」以降は、ロック系アーティストが作曲したメロディを多く取り上げていく。

大沢誉志幸、細野晴臣、高中正義、玉置浩二がそれだ。

そして、このシークエンスは84年11月発売の井上陽水が書いた「飾りじゃないのよ涙は」で結末を迎えるのだった。

これが最大の成果であり、これ以上の作品には同じ方法論では出会えないと判断したかのように、中森明菜のシングルに新たな志向が現われたのだ。

それが85年3月の「ミ・アモーレ」だった。

ラテンミュージックの大御所である松岡直也のメロディとアレンジだ。

新たな志向とは?エスニックと称するのは大雑把で、ラテン系と見るのは音楽偏重だろうか。

ならば“情熱”だ。

女の情をいかに熱く表すかだ。

それを表す手段がラテンであり、「SAND BEIGE」でのジプシー的アプローチであり、「DESIRE」でのネオ・ジャパネスク風コスチュームだった。

中森明菜のキーワードが“情熱”となった85年から、歌謡界はおニャン子クラブに揺さぶられる。

この素人集団の圧倒的なパワーにも臆することなく、彼女は連続チャート1位記録を伸ばし続けていた。

同時にアマチュアリズムのおニャン子クラブとの対比の中で“本格派”として語られる機会も急増したはずである。

そして、誰もが苦しむ“脱・アイドル”という壁を軽々と飛び越え、ひとりのシンガーとしてのポジションを固めた。

一般的にも“歌手・中森明菜”を認知させたのだった。

“情熱”というキーワードのシークエンスを86年の「DESIRE」で終えると、シンガーとしての存在を突き詰めようとし始めるかのようだ。

認知はされても実証性に欠けると思ったのだろうか。

もしくは自分の歌のスタイルを純化しようとしたのだろうか。

が、その志向も「難波船」1曲で満たしてしまったのである。

レコード会社の評価も“この歌は暗すぎてヒットは望めない”と、リリースに消極的であったと聞いたことがある。

頷ける声だ。

しかし、「難破船」はこの不安も一蹴してしまうほどのヒットとなった。

そして、今も中森明菜の代表曲のひとつとして高い人気を得ている。

アイドルでもなく、人気者でもなく歌手としての中森明菜の存在証明は、この曲によると思うのだが……。

87年8月、工藤静香が「禁断のテレパシー」でソロ・デビューした。

中森明菜と松田聖子のマッチレースであった歌謡曲シーンに、もうひとりのライバルが登場したのである。

工藤静香には後藤次利、初期の松田聖子には松本隆というロック・シーン出身のプロデューサーがいるが、中森明菜にはそれがないのも特徴だ。

松田聖子が産休後、世界進出へと動き、歌謡曲シーンから自発的撤退をしたのに歩調を合わせるように、中森明菜のシングル・リリース枚数も減少した。

89年には1枚、90年には2枚、91年には角川映画主題歌としての「二人静」1枚である。

が、チャート3位の「二人静」以外は89年以降もチャート1位のヒットとなっている事実からも、中森明菜の歌のファンが多いのは明白だ。

そして、今後も中森明菜にとって最高のプロデューサーは彼女自身であり続けるのだろう。

93年5月21日、MCAビクターより2年振りのニューシングルが発売になる。

NYレコーディングによる「Everlasting Love」だ。

坂本龍一の作・編曲。

大貫妙子の作詞。

バラードである。

1枚裏側で感情を歌っているかのように抑え気味だ。

淡々とループするリズムの上にあって、彼女のボーカルが妙になまめかしく聞こえる。

「少女A」でツッパリ、「DESIRE」で情熱を歌ってきた中森明菜の新しいテーマは“優しさ”や“抱擁”であるのかもしれない。

そんな歌が今後はもっと聞けるのだろう、と期待させられる新曲がやっと届いた。


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この記事から、早いものでもう20年が経ちました。

今度、明菜さんが復活する時には、いったいどんなテーマで新しい歌を聴かせてくれるのか…。


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